「通じない」からはじめる対話 ― 異なるハーモニーを聴くために

私たちは、同じ言葉を話していても、見ている世界は少しずつ違います。
生まれ育った環境、学んだこと、体験した喜びや痛み――それぞれの背景が、言葉に宿る響きを変えていきます。
だからこそ、**コミュニケーションの出発点を「違っているはずだ」**と置くと、対話はぐっと豊かになります。

平田オリザ氏は『[わかりあえないことから――コミュニケーション能力とは何か(講談社現代新書)](https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000210663)』の中で、
コミュニケーションを「同調の技術」ではなく、「異なる前提を持つ人と向き合う力」として捉え直すことを提案しています。
本書の章立てには「『対話』の言葉を作る」「コンテクストの『ずれ』」「協調性から社交性へ」など、
違いを受け入れるためのヒントが詰まっています。

### ■「わかりあえない」から始める勇気
私たちはしばしば、「わかり合うこと」をゴールにして会話を始めます。
しかし、完全な一致を目指すほど、違いは障害に見えてしまうものです。
けれど、**わかり合えないこと自体に学びがある**としたらどうでしょう。

平田氏はこう述べています。
> 「対話とは、異なる二つの論理がすり合わさり、新しい概念を生み出す」
([AND D. 対話のすすめ](https://www.and-d.co.jp/2019/04/05/dialogue/) より引用)

この「対話」の定義は、勝ち負けを決める討論ではなく、
AもBも変わることを前提に、互いの考えをすり合わせていく行為です。

### ■「ずれ」は関係が動いているサイン
話が通じない瞬間は、失敗ではなく、**前提が違うサイン**です。
そこから始まる“再構築”のプロセスこそが、関係の成熟を生みます。

『わかりあえないことから』では、この「ずれ」に注目します。
> 「現在、企業が求めるコミュニケーション能力とは『異文化理解力』でもある」
([note 書評記事 @norio0923](https://note.com/norio0923/n/ne75852fcee2a) より)

つまり、相手と自分の前提が違うことを前提に、
その違いを言葉にして共有する力が、これからの社会に必要だと説いています。

### ■同調から社交へ:場をひらく態度
本書は、いわゆる「空気を読む」型のコミュニケーションから、
**異なる人々が安全に出会える“社交性”**へと発想を広げます。
> 「対話は、いずれにしても両者ともに変わるという前提で始める」
([AND D. 対話のすすめ](https://www.and-d.co.jp/2019/04/05/dialogue/) より引用)

相手を変えるのではなく、**場を変える**という発想です。
違いを受け入れられる設計(時間配分、発言ルール、用語の定義など)を整えることで、
人と人との間に“安全な橋”をかけることができます。

### ■HARMONEER的まとめ:違いの中で響き合う
HARMONEERが大切にしたいのは、**同じになることではなく、違いの中でハーモニーを見いだすこと。**
「通じない」瞬間は、相手の中にある別の旋律を聴き取るチャンスです。

> 「対話的な精神とは、異なる価値観と出会い、自分の考えが変わることを潔しとする態度」
([note 書評記事 @norio0923](https://note.com/norio0923/n/ne75852fcee2a) より要約)

その態度を持てたとき、
私たちは“通じ合えないこと”から、“通じ合える”新しい回路を編み上げることができます。

違いを恐れず、響き合う。
それが、HARMONEERが目指す調和(ハーモニー)のかたちです。

**参考・出典**
– 平田オリザ『[わかりあえないことから――コミュニケーション能力とは何か](https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000210663)』(講談社現代新書)
– [AND D. 対話のすすめ(2019年4月5日)](https://www.and-d.co.jp/2019/04/05/dialogue/)
– [note 書評記事(@norio0923)](https://note.com/norio0923/n/ne75852fcee2a)