呪いの言葉を超えて — 経験がつむぐ、静かな魔法

私たちは、生まれてからずっと、言葉に包まれて生きています。
呼びかけ、教え、励まし、導くために、誰かが語りかけてくれました。
けれどその一方で、言葉はときに、知らず知らずのうちに心を縛ることがあります。

「ちゃんとしなさい」「そんなことしても意味がない」「向いていないよ」——。
その言葉を放った人に悪意がなくても、受け取った心は静かに冷えていく。
それはまるで、透明な糸でゆっくりと動きを制限されるような感覚です。
見えないのに、確かにそこにある。
そうした言葉を、私たちはいつしか「呪いの言葉」と呼ぶのかもしれません。

呪いという言葉には、恐ろしい響きがあります。
けれど本当の呪いは、ホラーではなく、とても身近なところに潜んでいます。
たとえば、家族の善意の忠告、先生の何気ない一言、
あるいは、自分自身が自分に向けた小さなつぶやき。
「私にはできない」「もう遅い」「どうせ誰もわかってくれない」。
そうした言葉を繰り返しているうちに、心の奥で小さな“結び目”ができてしまうのです。

それをほどく方法は、誰かの魔法のような言葉ではありません。
むしろ、あなた自身が積み重ねてきた経験にこそ、その力があります。

経験とは、記憶の中にだけあるものではなく、
ノートに書き残した言葉や、写真、作品、日記、手の跡のような「痕跡」です。
それらは、あなたが確かにここにいた証であり、
過去のあなたと今のあなたを結びつける橋のような存在です。

人は、言葉に惑わされるとき、つい“今この瞬間”の自分を小さく感じてしまいます。
でも、何年も前に書いた一文や、続けてきた習慣、手作業の跡などを見つめ直すと、
そこに「生きてきた証」が静かに積もっていることに気づく。
その積み重ねは、どんな呪いの言葉よりも強い力を持っています。

そして不思議なことに、その痕跡を外部に残すことで、
私たちは自分自身を少し客観的に見つめられるようになります。
ノートでも、アートでも、デジタルの記録でもかまいません。
言葉を超えた「かたち」にすることで、心が整い、
過去の自分を責めるのではなく、受け入れる準備ができていくのです。

HARMONEERが大切にしているのは、まさにその「外化」のプロセスです。
記録し、見つめ、積み重ねる。
それは、自分という存在を回復していく静かな営みです。
人は、言葉によって傷つくこともあるけれど、
同じように、言葉と経験によって癒されることもできるのです。

誰かの言葉に傷ついたとしても、あなたの中に積み重ねられた経験の痕跡が、
その言葉をそっと包み、やがて意味を変えていく。

それは、誰かのためではなく、自分を取り戻すための優しい魔法です。
そしてその魔法は、今も確かに、あなたの中に息づいています。